一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない


かよ子と瑠花はランチを食べ終えた時点で

始業時間までまだ20分ほど余裕があった。

二人はパスタ屋を出ると会社までの並木道を

ゆっくりと喋りながら歩く。

かよ子が会社へ通い始めた頃には

満開の桜が咲いていた並木道も

今ではすっかり葉桜へと姿を変えていた。


「そう言えば私達が先に帰ったあと、一色さんから

何かアプローチとかなかったんですか?」


「えっ...アプローチですか...?

そ、そんなのあるわけないです!」


隣を歩いていた瑠花の唐突な問いに

かよ子は思いきり首を横に振った。


「一色さんも男なら押し倒すくらいの

勢いがあってもいいのに...」


瑠花はブツブツとなにやら小声で呟いている。


かよ子はそんなことあるわけないのにと思いながら

呆れたようにふぅっと細かい息を吐くと

道ばたに落ちていた小石につまずいて

少しよろけてしまった。


その瞬間、

フラッシュバックのように

かよ子の脳裏に昇瑠に抱き締められた記憶が甦り、

思わずその場で立ち止まった。


「かよ子さん...?どうしたんですか?」


急に立ち止まったかよ子に、隣を歩いていた瑠花も

数歩ほど前を進んで振り返った。


「い、いえ...何でもないです...」


こちらを見つめながら首を傾ける瑠花に

かよ子は小さく首を振って再び歩き出した。


今のは何だったのだろう...?

夢...だよね...?

うん!そうだよ、夢に決まってる...

きっと瑠花さんが変なこと言うから

夢を思い出しただけなんだ...


かよ子は真っ赤な顔で歩きながら

自分を納得させるかのように

うんうんと顔を縦に頷いている。


しかし、なんて夢を見てしまったんだろう...


そして今度は歩きながら

真っ赤な顔を手で覆った。


そんなかよ子の不可解な様子に

瑠花は眉をひそめて怪訝な表情を向けている。


二人は5分ほど歩いて会社に着くと

自動ドアをくぐって

広々としたエントランスホールに足を踏み入れた。


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