僕のお姫様は甘えん坊さんですね
アーシアライン王国の王子ジャックとセシーリアの婚約が決まったのは1年ほど前のことだった。
親同士が決めた政略結婚ではあったが、幼い頃から仲がよかったジャックとの結婚にセシーリアは何よりも嬉しかった。

初めての夜。
今日からセシーリアとジャックは同じベッドで寝ることになる。
先に寝室に来ていたセシーリアはあっちへ行ったり、こっちへ行ったりとそわそわしていた。
と、ドアがノックされた。
同時にセシーリアの動きが止まる。
「は、は、はい!」
セシーリアは何度も吃りながらなんとか返事をする。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
ジャックが微笑みながら寝室に入ってきた。
「はい…」
「…」
「…」
「フワァ~、では寝るとしますか」
ジャックは欠伸をしながらベッドへと向かう。
(え、もう!?)
セシーリアもジャックに続けてベッドへと向かった。
真っ白な寝具に、レースの天蓋がついたベッド。
ジャックは天蓋を捲り、布団の中へ入る。
セシーリアはジャックに背を向けて恐る恐る入った。
「どうしてこっち向いてくれないんですか?」
そんなの恥ずかしいからに決まっている。
「私は…異性とこうして寝るのは…初めてで…」
「僕も初めてですよ」
嘘だ。
そんなはずは無い。
「では、どうしてそんなに落ち着いているのですか?」
「落ち着いている?そんなことはありませんよ」
「ほら」とセシーリアの手を握ると、自分の心臓辺りに持ってきた。
ドクンドクンとものすごい速さで動いているのがわかる。
「緊張…されているのですね」
セシーリアはほっとしたような顔をする。
「そりゃあこんなに可愛い方と寝るのですから」
「可愛いだなんて…」
それは姉へのセリフでは?と問いたくなる。
「ですからこちらへ向いて可愛い顔を見せてください」
「…」
セシーリアはジャックの方へと向き直った。
「よく出来ました」
ジャックはセシーリアの頬にキスをする。
「っ…」
一気に体温が上がったのがわかる。
「あんまりからかわないでください…」
「からかってなんかいませんよ。全て本心です」
「本心…」
「さて、と」
「きゃっ、なにを…」
ジャックはセシーリアを抱きしめる。
「こうした方が温かいですよ」
「そ、そりゃあ確かにそうかもしれませんけど…」
「それともこうされるの、嫌ですか?」
ジャックは抱きしめていた手を緩める。
「そういうわけじゃ…」
セシーリアは弱々しく答える。
「ならこのままでいいですね」
とても優しげな声音だった。
と、更に強く抱きしめられる。
(これじゃ寝れないわ…)
セシーリアの鼓動は早くなる一方だった。
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