宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~


「私が中学生の頃でした…。」

歩は全てが変わってしまったロンドンでの父の死から話し始めた。

一花にはバレエの才能が有り、家族は皆で彼女の成功を信じて応援していた事。

その一花がこれからのバレエ人生に関わる大怪我を負ってしまい、
父が急いでロンドンへ向かったのだが、交通事故で亡くなった事を。


「それからの事は良く覚えていません。母と島谷の伯父が色々頑張ってくれたんだと思います。」


だが、難病を患った母は、太田原の叔父に騙されてしまった。

「姉は、全ての原因は自分だと思っていました。自分を責め続けていたと思います。」

「そんな事が…。」

黙って歩の話を聞いていた陸は、ため息をついた。
自分より10も年下の一花は、自分一人が母と弟を背負おうと頑張っていたのだ。


「彼女があまりに明るく自然に振舞っていたので、全く気がつきませんでした。」

「姉はそういうタイプですよ。諦めが良いのか、物事に拘らないのか…。」

「あっさりとしていたのは、何も望んでいなかったから?」
「そうかもしれません。あなたとの時間も永遠では無いと始めから思っていたんでしょう。」


そうだ。人生に永遠なんて無いんだ。
今の自分が、まさにいい例じゃあないか。

一花はずっと側に置いておけると思っていた。何て傲慢だったんだ。


「彼女は…今何処に?」


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