宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~



「いや、特に用事は無い。仕事で近くに来たから寄っただけだ。」

「はい?」

「元気そうだから、安心したよ。」

一花は目を丸くした。彼女にとって、思いがけない言葉だったのだ。

「お陰様で…?」

「じゃあ、東京に帰るから。」

ニヤリと笑うと、陸は背を向けて玄関から出て行った。後ろ姿で手だけ振って。

『何、あれ…。』

お昼ご飯をさっさと食べたら、帰って行った。

『ホントの用事はなんだったのかしら。』



不思議な事に、この島に数ヶ月も放っておかれたのに
陸はその日以降、時折、というか突然、島にやってくるようになった。

大抵お昼を過ぎた頃で、一花が『プチ・ポアン』の午前中のバイトを済ませた頃だ。

「何か召し上がります?」

これが合言葉のようになった。

彼は、一花の出す料理をいつも美味しそうに食べている。

ばあ(・・)に教えて貰った料理や、秋山夫妻からのお裾分けだが、
陸にはどれも目新しい味の様だ。普段は何を食べているのだろう。

インスタントのコーヒーにも慣れてきたと、文句も言わずに飲んでいる。
コンビニのコーヒーより旨いと言うが本当だろうか?


陸は離れでお昼ご飯を食べたら、すぐに東京へ帰って行く。

『何故?』


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