キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
「だから言っただろ智成。前もって茉緒に話しておけって。いきなりこんな場所で社長と両親に会わせるとか、俺でも混乱するわ」
「ごめん茉緒、前もって話すといろいろと問題があったものだから言うのを避けていた」
「問題ってなに」
「俺の心の問題」
「はあ?」
「後でちゃんと説明するから、今はとにかく俺の隣で笑っていてくれるだけでいいから、頼むから逃げないでくれ」
困ったように眉尻を下げる智成を初めて見て目を疑った。
いや、時々、智成は自信なさげな顔をすることがある。普段は意地悪で強引なところもあるのに。
それはお兄ちゃんも察しているのか同じようなことを言った。
「智成は何でも卒なくこなすようでいて実は不器用だよな。茉緒に本当のことを言うにも躊躇するほどとは。そこまで情けないと俺も心配になるぞ」
「それを言うなよ、俺も気にしてんだこれでも」
片手で顔を覆うように隠す智成が私をちらりと見る。
「茉緒、幻滅したか?」
可哀想な子犬よろしくシュンとしている智成にきゅんとしてしまうのは惚れた弱みだけじゃないと思う。
しがみ付いていたお兄ちゃんから離れ智成の前へ出るとじっと智成を見つめる。
「後で、詳しく話してくれるんだよね?」
「ああ、今言えるのは、茉緒が好きだから、俺の大事な人たちに紹介したい」
子犬から急にきりっとした顔になった智成が真剣な声色で言うからちょっと照れてしまった。
もじもじしながらも文句だけは言っておこう。
「う、うん。わかった。でもそういうのほんとに先に話しておいてよ。私にだって心の準備があるんだから」
「ごめん。今度からはそうする」

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