鬼麟
 口角を上げて扉を見つめていた修人に、胸中で棗ちゃんに対して後ろめたさが残る。どうやら俺にはどうすることもできないらしい。
 修人のお気に入り認定されてしまった彼女には、本当にご愁傷様としか言いようがなく、それを俺も楽しんでいるから俺もまた、人のことを言えたものじゃない。

「調べろ」

 彼の中で関わらないという選択肢はなく、俺達下っ端はその命令が絶対だ。そして本当に残念なことに、これはもうしつこいくらいの鬼ごっこのようだ。
 どうやら関わらないのは無理みたいだと、彼女に謝る自身の口角が上がっていることには気付かないフリだ。
 そんな口に出すことのない謝罪を知ってか知らずか、修人の瞳が紅く光った。
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