ハニー、俺の隣に戻っておいで
ジョンは簡単に妥協する男ではないし、譲歩を引き出すことに成功した者はほとんどいない。 誰にも彼を脅す方法などないからだ。公平を期するために言えば、自分の身を危険に晒してまでジョンに脅しをかけようとしたのはニーナが初めてである。

しかし、ジョンにとってニーナは面白いやつだったが、彼女の生死が気になるほどではなかった。

本当に窓から飛び降りる気などあるのだろうか?

それはジョンにとってどうでもよかった。

「ルーさん、危ないことはやめてください」 ヘンリーは慌てふためいていたが、運転しているのは彼なのだから当然だ。何かあったら困るのはヘンリーなのだ。そこで彼は、ニーナの注意を引きつけておいて窓を閉めようとした。

「そんな小細工、意味ないわ」 ニーナはバックミラー越しにヘンリーを鋭くじっと見つめていた。そして、彼女が手を伸ばして窓を押さえたので、ヘンリーはぎょっとしてしまった。

そして、すぐまた窓を開けたが、 ニーナに怪我させて面倒に巻き込まれるのは真っ平ごめんだからだ。けれども、例の二人は取り扱いが恐ろしく難しかったので、ヘンリーはかつてないストレスを感じていた。

その上、言うまでもなくジョンの父、サムについても考慮に入れる必要がある。 ジョンは怒っていたのでニーナの生死などどうでもよかったが、もちろんサムにとってはどうでも良い訳がないからだ。

ニーナとジョンの関係についてサムがヘンリーに打ち明けてからというもの、彼はヘンリーに二人の関係の進展について毎晩報告させていた。

そして、当分の間ジョンには本当のことを伝えないようヘンリーに厳命すると、二人をくっつけるためにあらゆる手を尽くしていた。 どうしても恋に落ちないというなら、そのとき離婚を考えても遅くはないだろう。
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