ハニー、俺の隣に戻っておいで
「本気なの?」 ニーナは、まだ信じられないとでも言いたげだ。

「ゴタゴタいうのはやめ給え! シーさんの言う通りに するんだ。 さっさとワインを飲んだらどうかね」ジュ氏はそう言って ニーナを叱責する。 彼はすでに頭の中で損得勘定を済ませていた。 女性に目が眩んでジョンに喧嘩を売るのは愚の骨頂だ。 ここはジョンにおもねって喜ばせておくのが得策に違いない。

結局のところ、ジョンの方から誘ってきたおかげで彼と一緒に夕食を囲むことができたのだ。 然もなくば、こんな機会決して訪れなかったはずだ。

ジョンが主催したワインパーティーに参加したというニュースが知れ渡れば、ジュ氏にしたところで将来多くの利益を得られるわけだ。

「私はあなたのものじゃないわ。 怒鳴るのはやめてくれない」ニーナはイライラと声を荒げてそういうと、ジュ氏を ギロリと睨んだ。

さっきまでは彼が投資家だったので何とか我慢していたが、 その役割がジョンに移った今や話が違うのだ。 彼にはもうニーナに命令する権利などないというわけだ。

「君って人は……」 ジュ氏が 口ごもる。 彼は女のせいで言葉を失ってしまったのだ。

反対側ではジョンが大喜びでニヤニヤ笑っている。

それでこそ俺のお嬢ちゃん、という訳だ。

「ほら、さっさと飲めよ。そうしたらすぐに30億投資するからさ」そう言ってジョンはニーナを挑発したが、 仮にワインを全て飲み干したとしても彼女を手放す気などなかった。 何度も殴られたのだから、きちんとツケを払ってもらわなくては困る。

さもないと、このお嬢ちゃんは彼をやっつけるだけでは飽き足らず、将来もっととんでもないことをやらかしかねない。

ニーナは躊躇いつつ赤ワインのボトルを眺めた。 経験からするとグラス一、二杯ならどうと言うこともないが、 アルコールにあまり耐性のない彼女のことである、それ以上飲んだらしこたま酔ってしまうだろう。

そして、酔ったニーナは手が付けられないのだ。 酔ったが最後、狂気に陥って人を殴ったりする事もしばしばで、一度などワイン三杯飲んだだけで家に放火してしまった事すらある。
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