ハニー、俺の隣に戻っておいで
彼女にできる事はジョンの腕に寄りかかることだけで、それが残された最後の手段でもあった。

と言うのも、ジェームズが今すぐやって来ないとしたら、前後不覚のニーナはジョンを叩きのめしてしまうかもしれないのだ。

その瞬間、ドアがバタンと開いて皆を驚かせる。

ついに、ジェームズがピカピカの鎧を着た騎士のごとく颯爽と現れたのだ。 彼は個室で何が起きているのか理解する前に喘ぎながらしゃがみ込み、 口を開くや「ニーナおばさん、次回はちゃんと部屋の番号を教えてくれよ。 じゃないと、どこにいるかわからないじゃないか。 俺の頭が良くなかったら、今頃あんたを探してフロアを彷徨っているところだぜ」

幸い彼には、フレグランス・レストランの支配人のもとに赴き、こっそり撮っておいたニーナの写真を見せて尋ねるという利巧さがあった。 そして、支配人に彼女の居所を突き止める手伝いをしてもらったと言うわけだ。 然もなくば、一部屋ずつ探し回るほかなかっただろうが、 フレグランス・レストランにはフロアが二十もあり、各フロアには十を超える個室があるので大変な事になっていたはずだ。

個室にいる人々は興味津々でお互い見つめ合い、目の前で繰り広げられるショーを黙って眺めていた。

ジョンはめったに人前に姿を現さないので皆、彼のことは良く知らないが、 ジェームズは毎日のように街をほっつき回っているので、市内の人々はほぼ誰でも彼を目にしたことがあるのだ。

そして、普段のジェームズはだらしなくフラフラする遊び人に他ならなかった。

ところが今、彼は会食者たちの目の前で心配そうに立ち尽くし、「ニーナおばさん」などと口走っている。

その上、彼の叔父ジョンもその場に居合わせているのだ。

そして、その個室の紅一点はジョンの腕の中だ。
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