ハニー、俺の隣に戻っておいで

ジョンが慈悲心を起こすのを願って哀れっぽい視線を向けていたジェームズは、ニーナの手を振り払うと 遠慮がちに彼女をジョンの腕の中に押し戻し、「ジョンおじさん、ニーナおばさんはあなたに連れて行って欲しいそうですから、俺は帰りますね」と恭しく言った。

ニーナを手放すや否やジェームズは足を限りに素早く逃げる。

「ジェームズ、どこへ行くの？ 戻って来なさいよ！」 ニーナはカンカンになって子供のように地団駄を踏んだが、彼を追いかける力は残っていなかった。 しかし、その様子はなんとも可愛らしくいじらしかった。

ジョンはと言うと怒りを鎮める気などなかったのだが、この有様を見るとすっかり気分が萎えてしまった。

そして、屈み込むなりニーナを無造作に肩に背負い、 呆気にとられる皆の視線を無視して個室を出る。

彼の姿が見えなくなると、すぐに個室の人々の間で議論が白熱する。

「おい、聞いたか？ ジェームズがあの子に何と言ったか。 本当に彼の叔母さんなのかね？」

「ということは、あれがシーさんの 女だってことか？ 驚いたなあ！」

「驚くこともなかろう。 シーさんがどこかのお嬢さんと恋に落ちたって、 聞いたことがありますよ。 ほら、シーさん、ニーナさんのこと『お嬢さん』って呼んでらしたでしょう？」

「私も聞きましたよ。 お嬢さんと仰った。間違いない」

みんなが興奮気味に話す間、今日の主賓だったはずの ジュ氏は怒りで顔面蒼白だった。 ニーナがジョンの女だなんて思いもよらなかったのだ。

無論、ジュ氏もジョンがニーナを「お嬢ちゃん」と呼ぶのを聞いていたし、 風の噂でジョンがどこぞのお嬢ちゃんに恋しているらしいのも耳にしていた。

けれでも、まさかそれが本当だとは！