ハニー、俺の隣に戻っておいで
「なんだね? お金でも欲しいのか? なんでお金がいるんだ?」
サムは息子の仕草がわからないふりをするだけではなく、その上、わざと曲解したのだ。

「もう ……」
ジョンは怒り狂っていて、父親の行動に我慢がならなかった。

そして上着を手に取ると、くるりと背を向けて立ち去ろうとした。

「どこに行くんだ? 今夜は家族の夕食だぞ。 おまえも一緒にだ!」
サムは叫んだ。

「俺はこの二年間、あんたたちと夕食をとったことなんかないんだ。 俺がいようがいまいが関係ないだろ」
ジョンは手を振って出て行った。

「おい、戻ってこい!
」 サムは怒ってわめいた。

「あんたが離婚届を渡す気になったら帰ってくるよ」

「ジョン!」

サムは正直がっかりした。 そして、家族の集まりでは、ひどく暗いムードになってしまった。 みんな何も言わずに、ぎこちなく黙り込んで座っていた。



月曜日、ニーナはドレッサーのそばを通った時ハッと何かに気がついた。

彼女は立ち止まって香水の瓶を見つめる。

あの晩、イザベラが瓶をよこす前に中の香水を振りかけてきたことをニーナはよく覚えていた。

ニーナは細い指で香水瓶を掴むと、そっと蓋を開ける。

「フェロモン香水だ!

私が騙したとあの男が言ったのは、そういうことだったのか!」 ニーナは目を細め、香水をバッグに放り込んで大学に向かった。

偶然にも、彼女は食堂でイザベラに出くわした。

「ニーナ、週末はどうだった?」
イザベラはまるで何もなかったかのように尋ねた。

しかし本当は、ニーナの週末がどうだったのかなんとなくわかっていた。

フォーシーズンズ・ガーデンホテルで朝、目を覚したときに、たまたまニーナがおろおろしながら立ち去るのを見たのだ。

思いの外、彼女の計画はうまくいったのだろう。

ニーナの処女を失わせたのは自分なのだと思うと、イザベラは鼻が高かった。

そして、誰かに純潔を奪われたいま、ニーナはアルバート・ソンにとってもはや理想の彼女ではなくなったと確信していた。

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