ハニー、俺の隣に戻っておいで
第2章 既婚
「おまえ、恥知らずって意味わかる?」
ジョンはいきなり立ち上がると、手にしたタバコを灰皿に弾いた。 そして、それ以上なにも言わずにニーナに近づく。

彼女は背の高いジョンと並ぶと小さく見えた。 ニーナは隅に追いつめられ、 拳を握りしめて息を潜めた。 もう後戻りできない。

男の独特な匂いがニーナの鼻先に漂い、 彼女の顔全体が赤らむほど刺激した。

「私はあんたが思っているような人間じゃないわ!」
ニーナはと怒鳴り、ジョンを睨みつけた。

けれども、今しがた彼女に近づいたとき、ジョンは何かがおかしいことに気づいた。 ニーナはもっと近づきたくなるような不思議な香りを纏っていたのだ。

余裕を失って、ジョンの表情がさっと変わる。

香水のせいで、ニーナの体も彼に向けてしなやかになった。 それはまるで、香水が二人を操り人形のごとく弄んでいるようだった。

「おまえの匂いか! 俺を焚きつけるのは!」
ジョンの額に青筋が立ったが、彼は怒りを抑え込んだ。 そして何も考えずにニーナをつかまえると、もはや彼女にもっと近くことしか頭になかった。

「やめて! 私……ねえ、 放しなさいってば! 私もう……」

彼女はすでに結婚していたのだ。

夫が誰なのか、どんな風貌なのかすら知らなかったが、婚姻届に署名して結婚してしまっていた。

けれども、ジョンはもうニーナのたわごとを聞き続ける気はなかった。 そして、なにも言わずにニーナに激しくキスをした。 ジョンの唇が彼女の唇に触れるや否や、彼の体は強張った。

案の定、ニーナの唇はとても甘かった。

「放して……」
彼女はジョンの胸を拳で叩きながら、すすり泣いた。

ニーナは意外と力があったが香りの影響はそれを上回り、ジョンをますます興奮させた。

彼は少し身を乗りだしただけのつもりだったが、ニーナはすっかり怯えて、顔が青ざめている。

ジョンが触れるとニーナの全身に電気が走り、彼女は黙り込んだ。

しばらくすると空が明るくなり、夜明けが近いことを告げていた。

< 4 / 255 >

この作品をシェア

pagetop