猫耳少女は森でスローライフを送りたい
 結局、今回持ち寄った薬のほとんどが、すでに体を患っていた人たちの治療で使ってしまった。だから、また森のアトリエに戻ったら、今度は、病人が出た時用のストックが欲しいので、近いうちにまた薬を持って来て欲しいと依頼を受けた。

 ……うん、ありがたいわ!
 そして、現状病を抱えていた人たちを治すことができたことが、とても嬉しかった。

「チセ。お薬、予定どおり全部売れたから、何か買い物をするのかい?」

 くまさんが私に尋ねてきた。
 といっても、この村はたった一軒の雑貨屋さんしかない。だから、何を購入するにしてもその店にいく必要があるので、その店にみんなで向かっていた。

「食料関係は、村の人たちにいただいちゃったのよね……」

 そう。
 家人の病が治ったことに感激した人たちが、自分の家で生産している食料なんかを、お礼だといって渡してくるので、買う必要がなくなってしまった。

「となると、私、服が二枚と、靴が一つしかないから、それらがダメになったら困るし、買い足ししたいかしら? そうだ。くまさんも、普段そうやって獣人化してもらっているなら、替えの服が欲しいわよね?」

 私がくまさんに尋ねる。
 ()といっても、彼女は獣人化すれば可愛らしいくま耳の少女である。
 私のその質問に、思ったとおり、嬉しそうな表情を浮かべた。

「チセ、いいの!?」

「そりゃぁ、くまさんは私のアトリエのお友達なんだから、当然よ!」

「やった! チセ、ありがとう!」

 くまさんは瞳をキラキラさせて、何にしようか思案げだ。

「それにしても、なんで獣に転じたり、その逆で獣人姿に戻っても、元通り洋服を着ているのか、不思議なのよね」

 私は、この世界に来た当初から不思議に感じていたことを呟いた。
 すると、スラちゃんが、はぁ? と言って、少し呆れた感じで教えてくれる。

「チセ。君は今さら何をいうんだぽよ。獣人用の服は、アラクネ糸が原料なんだから、当たり前だぽよ」

「アラクネ糸?」

「アラクネという蜘蛛型の魔獣だぽよ。その糸を紡いで、機織りして、獣人用の特殊な服になるんだぽよ。なんだか、チセは時々当たり前のことをわからないと言い出してみたり、訳がわからないぽよ」

 頭の上のスラちゃんに、ぶつぶつ言われながら、店に向かって歩くのだった。

 少し歩いて店に着いたので、みんなで雑貨店に入店した。
「いらっしゃい」
 ここの店主はハーフリングのおばさんのようだ。入店してきた私たちを見て、にこやかに迎えてくれた。

 そして、古着っぽいけれど、状態の良い服が複数売り場に吊り下げられていた。

「あったね! どれにしようか……」

 あれでもない、これでもないと物色していると、店の外から警戒を促す怒鳴り声が聞こえてきた。

「え? 何事?」

 私たちは、びっくりして物色する手を止める。
 すると、雑貨店のおばさんが、私たちには店内にいるようにと忠告する。そして、彼女自身は、店の入り口から外を覗いて見て、状況を把握してくれている。

「ゴブリンが襲撃しに来たらしいよ。あなた達、危ないから、店の奥で隠れていた方がいいよ。ささ、こっち!」

 親切にも、私たちを匿ってくれようとするのだけれど……。

「僕も、くまも、チセもみんな強いぽよ。外で防衛組に協力するぽよ」

 急にスラちゃんが言い出した。

 あれ? くまさんとスラちゃんは強いとして、私そんなに強かったっけ?

 そう思って、スラちゃんに尋ねたら、また彼に呆れられてしまった。

「チセは、精霊を召喚できるし、彼らの魔法だって継承してるぽよ? それに、くまの爪を継承しているから、物理攻撃も強いはずぽよ」

 ため息をついてから、スラちゃんが説明してくれた。
 そういえばそうか。
 今まで戦う必要なんてなかったから、すっかり失念してたわ。

「あなた達、薬師様かと思っていたら、さらに戦えるっていうのかい?」

 私たちの話が聞こえたようで、おばさんが驚いたように目を丸くする。

「……スラちゃん。いけるよね?」

「もちろんぽよ!」

「じゃあ、行ける子は行くよ! ソックスはここでお留守番していてね」

「……不本意だけど、そうするにゃ」

 しゅんとするソックスの頭を撫でて慰める。

 ……少しでも、村の人たちを助けたい!

 交流が決まったこの村は、もう私の親しい人たちだ。何もせずに、彼らが傷つくのを見たくない。

「……じゃあ、行こう!」

 私たちは、一度閉じられたお店の扉を開けて、外へと走り出すのだった。
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