静かな少女
静かな昼の住宅街。そこに彼女の姿はあった。いつまでも変わらない白い肌。まっすぐな黒い瞳。そして彼女は笑顔で言うのだ。

「ひさしぶり。」

あんなに嫌いだったこの場所も今では笑顔でいることができる。時間とは不思議なものだ。彼女が通っていた学校にはまだブランコがあるらしい。あの頃はできなかったことをしようと、彼女はブランコに座り、空を見上げた。しばらくすると、彼女は立ちあがり懐かしいあの家へと向かった。

彼女が住んでいた時よりも少し年を取ったようだったが、面影は残っていた。庭に咲いていたツツジの木も、今は枯れ木のように細くなってしまっている。彼女は庭の奥へと向かった。

そこには、一人の女性がいた。彼女の母親だ。

「ママ。」

あの頃と同じように彼女は母親を呼んだ。だが、母はその呼びかけに応答しなかった。そしてうつむき、

「ごめんね……。」

ただ一言、消えてしまいそうな声でつぶやいた。彼女は後ろから母を抱きしめた。

「大丈夫だよ。」

涙をこらえながら彼女も答えた。自分の声が聞こえていないとわかっていても。

3年前、この場所で中学三年生の時、彼女は2階にある自分の部屋から飛んだ。母親は何度も彼女に学校に行きなさいと言った。休みがちだった彼女も短い時間だけでも学校に行くようになった。母親もやっと元気になったと安心していた。だが彼女は学校に3日いったあと、飛んだ。母親に安心してもらいたい。笑顔になってもらいたいという彼女の思いだった。それでも彼女の心は限界だった。最後に彼女は母親への手紙にこう残した。

「ママ、私学校行けたよ。」

彼女は楽になりたかった。でも、楽になることはできなかった。
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