政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
敷地の手前で一度車を止め、慰めるようにお兄さんが頭をぽんぽんしてくれる。
それでもガチガチでぎこちなく私が頷き、お兄さんははぁっと小さくため息を落とした。

「これは上手くいくようにおまじないだ」

お兄さんが動いた気配がして、そちらを見る。
伸びてきた手が前髪を掻き上げ、露わになった額に口付けが落とされた。
瞬間、火でもついたかのように全身が熱くなった。

「きっと上手くいく。
だから頑張れ」

再び車を出し、お兄さんは家の敷地へ入っていく。
玄関前に止まると同時に、父をはじめ家のものが大慌てで出てきた。
いつまでたっても帰ってこないし、携帯も繋がらないので捜索願いを出す寸前だったらしい。
ちなみに携帯は家を出たときから電源を切ってある。

「お父さんと喧嘩して帰りづらかったようです」

促すようにそっと、お兄さんが私の背中を押す。
それで少しだけ勇気が出た。
父は喜びと怒りの混ざったなんとも言えない顔をしている。
それだけ心配させたのだと、考えなしな自分の行動を後悔した。

「娘さんから話は聞きました。
娘さんの夢にかける情熱は本物です。
どうか怒らずに話を聞いてやってください。
私からもお願いします」

父は何事か言おうと口を開いたが、私のために真剣に頭を下げるお兄さんの態度を見てすぐに閉じた。

「娘を保護してくださり、ありがとうございました」

両親のお礼がしたいとの申し出を辞退し、お兄さんは帰っていった。
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