冬の春

「初めて会った時、悲しそうだったからさ」


ああ、それでか……


「ひどい顔してたから気付いちゃいました?」


「ああ……」


大悟さんは頷いたあと、深刻な顔で話し始めた。


「前にさ、同じことがあったんだ」

「同じこと?」

「うん。その日も真冬の朝だったよ。女子高生があの海岸でうずくまってたんだ。

俺は、泣いているその子に声をかけると、失恋が辛くて自殺しに来た、と話したんだ。

だから、この店に連れてきてパンを食べさせて話を聞いてやったんだ。

そしたら少し元気になってさ」


ふっ、と優しく微笑む大悟さん。


「そうですか……って、私は自殺しに来たわけじゃないですよ!」

「あれ? 違うの?」

「違います!」

「そっか、なーんだ。アハハ」


大悟さんは笑い出した。


「笑い事じゃないですよ」

「アハハハハ、勘違いかぁ」

「あ! だから変な態度だったんだぁ」

「変だった?」

「はい睦さんも」

「そっかぁ、ガハハハハ」


豪快に笑う大悟さんを見ていたら、こっちまで可笑しくなってくる。

なんだか、女子高生が元気になったのが、分かる気がする。


胸の奥が、ほんわか温かくなっていた。


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