今さら好きだと言いだせない
「俺、最初は芹沢のことも苦手だった。いつも澄ました顔して、先輩の俺に対してもツンとしてて、生意気で。でも、徳永とは正反対で芹沢は正直だもんな」

「今は苦手じゃないんですか?」

「ああ、徳永よりはマシ」


 本人が聞いたらどんな反応をするだろう?
 想像したら、「それはどうも」と素で受け流す芹沢くんの顔しか思い浮かばなくて吹き出しそうになった。


 ニヤニヤと笑いが止まらないまま高木さんと共に自分の部署へ戻ると、出入り口付近で芹沢くんと出くわした。
 
「お疲れ様」と声をかけようとしたのだけれど、彼はすぐに私から高木さんへと目線を移してしまう。


「わー! 芹沢、待て、誤解だ。俺は町宮を口説いたりしてないぞ」


 芹沢くんは言葉は発していないものの、なにか言いたそうな冷たい視線を投げかけたせいで、高木さんがひとりであわあわとしながら両手を挙げている。
 これではまるで芹沢くんが銃口でも向けているみたいだ。


「町宮からも説明してくれよ! 俺は“助けた側”だって」


 高木さんに援護を求められ、私は笑いながらうなずいて芹沢くんの腕にそっと触れた。
 そして、徳永さんに絡まれた私を高木さんが助けに入ってくれたのだと簡単に説明した。


「高木さん、ありがとうございました」

「え、芹沢から礼を言われるなんて……」

「俺のこと、どんな人間だと思っての発言ですか」


 軽く溜め息を吐きながらあきれる芹沢くんがおかしくて、私はうつむきながらクスクスと笑った。

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