執事的な同居人





自分がどれほど紀恵さんに依存しているか、この事をきっかけに思い知らされた。




大事な仕事だろうと関係ない。今の俺は仕事よりも紀恵さんの方が大事で、紀恵さんに何かあれば例え遠くにいたとしても飛んで帰って来てしまう。




……もう二度と他の誰かに触れられてしまわないように、いっその事閉じ込めておきたいぐらいだ。





誰の目にも映るな。


俺だけを見てほしい。






(俺は、キミのことが死ぬほど好きなんだよ)






助けられなかったこと。紀恵さんを助けたのが俺じゃなかったこと。……好きで好きでたまらないからこそ、極度の嫉妬心が俺を支配する。




その時の紀恵さんは、一体何を考えた?


カズに少しでも
心を惹かれてなんていないよな?






「……紀恵さん」





無意識に名前を呼べば、彼女は寝ながらもふにゃりと笑顔を浮かべる。





(……あなたに再会してから、俺はだいぶおかしくなりましたよ)





『好き』という感情が分からなかった俺が、今じゃ度を超えるほどキミが愛おしく感じる。



…失うのが怖くて恐ろしいほど。





軽く紀恵さんの髪を払い除けて服の首周りの部分に指を引っ掛ける。クイッと下に引っ張れば、見えるのは鎖骨。華奢な彼女はくっきりとその形が見えた。




その鎖骨の上辺りに噛み付けば、薄らと赤い印がつく。





もちろん、無意識だった。


無意識に痕をつけてしまった。




ハッと気がついて良かったと思う。このまま気がつかずにいれば身体中に痕をつけていただろう。






「…………………」






未だにスースーと眠る彼女を置いて部屋を出た。……自分の依存具合には毎度驚かされる。






(俺が暴走する前に…)






歯止めが、効かない。

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