執事的な同居人






どこに向かっているのかは
聞かなくても分かる。




……駅の方。家に帰らせようとしてる。






この時、手を繋がれている事には気がついていた。


"外での接触は禁止"そういうルールがありながらも、颯太さんは私と手を繋いでる。




普段なら嬉しくてたまらないようなことも、今は悲しくて仕方がない。



この手のぬくもりもその後ろ姿も、もう二度と感じられないし見られないのかもしれないのだから…。





「うっ…ヒック……」





泣きすぎて過呼吸のようになってしまう。颯太さんはその事実に気づいていながらも前へ前へと歩く。




私はその後を軽く引っ張られながらついていくだけで、抵抗も何もしない。


……したくても、きっとそれは颯太さんにとって迷惑な行動だと思うから。






颯太さんは私に対する愛情が異常だと言った。



でもそれは、私だってそうだ。




颯太さんが傍にいてくれないと不安でたまらないし、電話越しに聞こえた女の人の声でさえも嫉妬してしまう。



今何してるの?

颯太さんは私のだよね?って。





『依存し合ってる』




カズさんに言われたその言葉が今になって心に響く。





依存しているとは感じていたけど、ここまで颯太さん一色に染まってしまうなんて。






「ねぇ颯太さん…」





掠れる声。私が今から言おうとしていることは、きっと颯太さんを苦しめてしまう。





私はあなたを苦しめたいわけじゃない。

寧ろその逆。



ずっと笑顔でいてほしいし、誰よりも幸せになってほしい。


その苦しみから解放してあげたい。




そのためには、

私との繋がりがなくなればいいだけの話。





何もかも全て終わりにすれば、


彼は解放される。






けれど、それでも……









「私と駆け落ちしてっ…」









最後の抵抗。




これが、あなたの傍にいられる1番の方法だと思う。


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