アンドロイド・ニューワールド
「瑠璃華さん、瑠璃華さん」

と、奏さんは私に言いました。

片手で車椅子を動かし、片手に解答用紙の束を持って。

「どうしたんですか?」

と、私は尋ねました。

随分と、興奮した様子に見えます。

何か面白いものでも見えたのでしょうか。

「凄いよ、これ」

と、奏さんは解答用紙の束を、私に差し出しました。

良いのでしょうか。私が見ても。

先程、ホームルームのときに、解答用紙の束を返されたときは。

クラスメイト達は、こそこそと点数を隠すように持ち帰っていたので。

何か疚しいものでもあるのだろうか、と思っていたのですが。

奏さんは、普通に見せに来ましたね。

きっと彼には、何も疚しいものはないのでしょう。

「手応えあったから、良いだろうとは思ってたけど。本当に、今までで一番良い点数だったよ」

と、奏さんは言いました。

とても嬉しそうな様子です。

良かったですね。

私は、奏さんに渡された解答用紙を、ぺらぺらと捲ってみました。

成程、どれも90点を越えているか、一番低い点数でも80点台後半です。

…。

「…奏さんは、これで満足なのですか?」

「え?」

「あんなに勉強会を頑張ったのに、こんな点数とは…。期末試験のときは、もっと徹底的に対策しないといけませんね」

と、私は言いました。

私としても、奏さんの成績向上の為に、かなり力を入れたつもりでしたが。

まだまだ、あの程度では足りなかったようです。

「…え、えっと…?自分では、結構良かったと思うんだけど…」

と、奏さんは困惑したように言いました。

「そうなんですか。志が低いですね」

「それは…まぁ、全教科100点も夢じゃない瑠璃華さんに比べたら、これでもまだまだかもしれないけど…」

と、奏さんは言いました。

声のトーンが下がっていますね。落ち込んでいるようです。

何だか私が悲しませたみたいで、嫌ですね。

「でも、90点でそんなに喜ぶということは、以前はきっと、二桁にも満たない点数だったのでしょう?」

「は?」

「それを思えば、とても進歩したと思います。確かに、まだ満点の一割にも満たない点数ですが、それでも着実に、前に進んでいます」

と、私は言いました。

どうでしょう。これが励ましというものです。

碧衣さんのように、上手く出来たでしょうか?

出来なかったことを責めるより、出来たことを褒める。

教育の基本ですね。

「大丈夫です。ゆっくり点数を上げていきましょう。そうですね…次の目標は、200点くらいで…」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って瑠璃華さん。何か勘違いしてる。君は何か、根本的なことを勘違いしてるよ」

「…?私が?何を勘違いしているのですか?」

と、私は尋ねました。

すると。

「…瑠璃華さん。うちの学校の試験は、全部『百点満点』で計算してるから。決して、『千点満点』じゃないから」

と、奏さんは真顔で言いました。

「…」

と、私は無言で、奏さんの顔を見つめました。

そのときの衝撃は、まさに言葉では言い表せないほどでした。
< 160 / 345 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop