アンドロイド・ニューワールド
と、思ったら。

「はい、ちょっと待ったヘレナちゃん」

と、局長は言いました。

「何でしょうか」

「任務にやる気満々なのは良いんだけど、今回は、いつもの任務より制約が多いから、まずはそこを確認しておこう」

と、局長は言いました。

制約ですか。

「まず、『Neo Sanctus Floralia』の情報については、口外しないこと」

「分かりました」

これは仕方ないことでしょう。

そして。

「人間の振りをするに当たって、君の身体能力や、『新世界アンドロイド』としての機能は隠すこと」

「分かりました」

これも仕方ないことでしょう。

人間の振りをするのですから、アンドロイドの機能を見せてしまっては、その時点で私は人ではありません。

元々人ではありませんが。

「それと、これは制約じゃないけど…」

「何ですか?」

「名前を決めなきゃならない。さすがに、コードネームで学園生活を送る訳にはいかないからね」

と、局長は言いました。

名前…名前、ですか。

「何か希望はあるかな?」

「特にありません」

「あいうえお」という名前でも結構です。

「そう言うだろうと思って、考えてきたんだよ」

と、局長は言いました。

局長が考えてきてくれたなら、それをもらうとしましょう。

「子供は親の名前をもらうもの。名字は、私と同じ久露花にしよう」

「分かりました」

今日から私の名字は、久露花です。

そういえば、名字をもらうのは初めてです。

「で、下の名前だけど…。君の、その綺麗な瞳の色をもらおうと思う」

「…瞳の色?」

「瑠璃(るり)。君の名前は、今日から久露花瑠璃だ。どう?気に入った?」

…。

久露花…瑠璃…。

「この名前で、近くにある高校の転入手続きを、」

「不服です」

「え」

私が素直に答えると、局長はピタリと静止しました。

「とてもありきたりな名前で、不服です」

「え、そ、そうかな…?」

「はい。目が瑠璃色だから瑠璃、って…。うさぎの目が赤いから、『赤』という名前をつけるのと同じで、エンターテインメント性に欠けます」

「…名前って、別にエンターテインメントは求めてないと思うんだけど…」

と、局長は言いましたが。

敢えて、聞こえなかったことにします。

「世間では、キラキラネームなるものが流行っていると聞きました」

と、私は言いました。

「そして代表的なキラキラネームの中には、『華』という漢字が使われているケースが多いというデータを入手しました」

「…何処から得たの?その情報…」

「よって私は、より人間達に親しい存在となる為、敢えてキラキラネームを採用し、久露花瑠璃華と名乗ることを希望します」

と、私は言いました。

「…キラキラしてると思う?」

「さ、さぁ…。文字数…多いですね」

「と、とりあえず…全国の瑠璃華さんに失礼のないように、ヘレナちゃんは別に悪意があってこの名前を希望したんじゃないよ、ってことを宣言しておこう…」

「…そうですね…」

と、局長と副局長は言いました。

そんな訳で。

私は今日から、形式番号1027番、コードネーム『ヘレナ』改め。

久露花瑠璃華として、生活することになりました。
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