若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
思いを込めてそう返すと、蓮さんは僅かに表情を和らげて、持っていた紙袋を私に差し出した。
「これ。あげる」
私は紙袋と蓮さんの顔を交互に見つめる。
和風な模様の紙袋には「老舗和菓子店ヤツシロ」とある。
「中身は練り切り。ただし、俺が作ったやつだけど」
「……ほ、本当ですか?」
震える手で紙袋を受け取り中身を覗き込むと、プラスチックの透明な容器に花を模した可愛らしい練り切りが一つ入っていた。
「すごい。……本当に作れたんですね」
ぽつりと発した声が震え、じわりと目に涙が浮かぶ。
かつてのやり取りを思い出し、生意気な台詞を吐けば、互いの口元に笑みが広がる。
「だったら私も受け取ってもらえませんか? 先輩に似合うかなって思って選んだ物です……もちろん無理にとは言いません。後で捨てちゃっても構いませんから」
ポケットから取り出して差し出したプレゼントを、蓮さんは両手で受け取ってくれた。
「先輩……あの……」
「好き」のひと言はどうしても出てこなくて、代わりに涙が溢れ出てきた。
「大学に行っても頑張って下さい」
込み上げてくる切なさに歯を食いしばって耐えていると、大きな手が私の頭を優しく撫でた。
「ありがとう」
優しい声に涙が止まらず、再びどこかで蓮さんと会える日が来る事を願わずにはいられなかった。