夜風のような君に恋をした
「あれ? 市ヶ谷?」

ぼんやりしていた俺は、背後から突然聞こえた声に我に返る。

振り返ると、あっけらかんとした顔をした一輝が立っていた。

俺と同じ、水色のYシャツにボーダーネクタイのK高の制服。

日焼けした肌に茶色の短髪に、邪念のなさそうな眼差しは、夜の闇を背にしょって立つには不似合いだ。

「こんな時間に何やってんの?」

「……ちょっと、コンビニまで行った帰り。お前こそ、どうしてこんなところにいるの?」

「俺は塾の帰り。テストの結果が悪くて、居残りさせられちゃってさー」

うんざりした口調ながらも、見るからに明るい表情の一輝は、弾むような足取りで俺の隣に並んだ。

一輝はきっと、俺のことが大好きだ。

憧れのような目で見られていることも、全部知っている。

だけど一輝が好きなのは、爽やかで優等生の、偽物の俺。

卑屈で死にたがりの本当の俺を知ったら、こいつはどう思うんだろう。

そんな焦燥に駆られ、俺はときどき、一輝といるとつらくなる。

「そっか。遅くまで、塾大変だな」

ニコッと、余所行きの顔を貼りつける。

一輝はいつものように目を細めて、そんな俺に間近から羨望の眼差しを向けてきた。

「俺バカだから、塾行ってないとすぐ成績落ちるんだよな。市ヶ谷は塾行ってないのに、いつも成績よくてすごいよな」
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