夜風のような君に恋をした
すると冬夜は身をかがめて――涙まみれの私の唇に触れるだけのキスをした。

夜の風が、どこからか金木犀の香りを運んでくる。

夏が終わり秋が来て、そろそろ冬が近いらしい。

柔らかな余韻を残して、彼の唇が離れていった。

目を開けて冬夜を見ると、彼は子供みたいに泣き濡れた顔をしていた。

そんな彼に、五年前のあの日、高架の上で泣きじゃくっていた高校生の彼の面影が重なる。

あの頃よりはずっと大人っぽくなっているけど、彼はあのときと何も変わっていないのだと気づいた。

不器用で、孤独で、でも優しくて――。

だから私は、そんな彼を、両手を広げて、あの夜みたいにきつくきつく抱きしめた。
 
もう二度と、彼の心が、闇に沈んで消えてしまわないように。
 
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