気づけば君が近くにいてくれた
自己紹介は今日じゃない。
それなら、明日は休んでしまおうか。
怖いものは怖い。
嫌なものは嫌だ。
自己紹介があるないに関わらず、明日登校してこられる自信なんて……
ぼっとしていると、いつの間にか初日のホームルームは終わっていた。
みんな机の上に置かれた資料やら教科書やらをカバンにしまっている。
早く私もしまって帰らないと。
その出遅れた1歩が悪かった。
「名前なんて言うの?」
最初は私のことじゃないと思っていた。
中学生の頃から髪を切って印象を少しだけ変えたとはいえ、地味な容姿なことに変わりはない。
私なんかに声をかける人は、誰もいないと思っていた。
「ねえっ!」
「……っ!」
前の席に座っていた女の子が振り向いて私を覗き込んできて、初めて私は声をかけられていたということに気がついた。
「私の名前は、小崎香純! よろしくねっ」
実際に同級生と話すのは久しぶりで、上手く言葉が出てこない。
「え、あっ……」
言葉にならない小さな声が漏れる。
昭子おばあちゃんとなら、何も考えずに会話ができるのに。