悪魔な太陽くんと餌の私

「……きて、起きて、月乃ちゃん」



名前を呼ばれて、ゆっくりと意識を取り戻す。

目の前に見えるのは、見覚えのない木目のクロスが張られた天井。

周囲を見回してから、ここは太陽くんのマンションだと気付く。

どうやら私は太陽くんのベッドで眠っていたらしい。



「おはよう、月乃ちゃん。やっと目を覚ましたね」

「……頭痛い」



にこやかな笑顔で声をかけてきた太陽くんは、さっきまでとうってかわって調子が良さそうだ。

ベッド近くに置かれたスツールに座って、にこにこと笑顔を向けている。

ずきんと再び頭が痛んだ。貧血を起こしているみたいに、目の前がぐるぐる回っている。


「なんか、身体がダルイんだけど」

「ごめんね。ちょっと精気を吸いすぎちゃったみたい」



私がゆっくり体を持ち上げると、たいして悪びれた様子もなく太陽くんが言った。

なるほど、この体調が悪いのは精気を吸われ過ぎたせいなのか。



「太陽くんは元気そうだね」

「月乃ちゃんのおかげだよ。正直、かなり助かった。ありがとうね」



ツヤツヤした顔でお礼を言われて、私は顔を顰めた。

弱っている姿に同情したけれど、同情してやる必要なんてなかった気がする。

太陽くんが元気になって、私の体調が悪くなるなんて、理不尽だ。



「精気を吸われ過ぎたらこんな風になるなんて、知らなかったんだけど」

「うん。俺も今まではその辺、気をつけてたんだけどね。今日はちょっと空腹すぎて加減ができなくて」

「はぁ、もう良いよ。でも、なんでそんなに空腹だったの? おととい、補充したよね」



ちょうど2日前の夜、夢の中で私は彼に精気を渡しているのだ。

そんな急に空腹になったりしないはずだし、そもそも、太陽くんが学校を休むなんて初めてのことだ。

何が原因なのかと尋ねると、太陽くんはちょっと困った顔ををした。



「ちょっと厄介事があって、逃げるのに力を使ったんだ」

「厄介事?」

「うん。ほら、俺って悪魔の一種でしょ? だからまぁ、敵対勢力みたいなのに狙われてんの」



さらりと告げられた言葉は現実感が無くて、私はぽかんと口を開いた。



「なにそれ。ファンタジー映画?」

「まぁ、俺の存在自体がファンタジーみたいなものだし」

「狙われてるって、まさか、命を?」



そんな馬鹿なと冗談めいて尋ねたら、太陽くんから思いがけない真剣な眼差しが帰ってきた。

冗談ではないのだと気がついて、喉が渇く。

< 37 / 144 >

この作品をシェア

pagetop