悪魔な太陽くんと餌の私
母が亡くなったとき、親戚は私を引き取るのを嫌がった。
離婚した私の父が起こした不祥事を嫌ったのだ。犯罪者の身内を、家に置きたくなかったのだろう。
一人暮らしをすることを条件に、母の兄が身元を引き受けてくれることになった。
とはいっても、私の生活費は母の労災と生命保険、あとは私のアルバイトで賄っている。
生活は楽ではないが、高校卒業まではどうにかなるだろう。その後は大学にはいかずに、適当な企業に就職すればいい。
アルバイト先で貰ったお弁当で夕食をすませ、シャワーを浴びてから、私はごろんとベッドに寝そべった。
太陽くんは、今夜私を食べにくると言っていた。
ならば、そのうち眠気がやってくるのだろう。太陽くんの食事の時間だ。
――誰かが自分のために作ってくれたご飯を食べるのなんて、久々だったなぁ。
昼間のことを思い出す。
太陽くんが作ってくれたお弁当は、懐かしくて優しい味がした。
母が父と離婚する前、私が幸せだったころ、母が作ってくれたご飯はあんな味だった気がする。
母が亡くなってから、私はロクに料理をしなくなった。
食事を作っても、自分以外に食べてくれる人がいないと思うと、どうにもヤル気が出ないのだ。
アルバイトしているお弁当屋が私の事情を知っていて、バイトのある日はいつも帰りにお弁当を持って帰らせてくれる。
それ以外は、適当に米を炊いたり、カップ麺などの即席ご飯で空腹を満たしていた。
私は自分の家庭事情を、学校の誰かに話したことはない。
太陽くんは私の粗末な握り飯を見て、何かに気が付いたのだろうか。それで、お弁当を作ってきてくれた?
同情だったら嫌だなぁ。
そう思ってから、太陽くんだったらそれはあり得ないかと思いなおす。
彼はきっと、誰かに同情したり、憐れんだりする性格じゃあない。
純粋に、エサとしての私の栄養状態を心配してくれたのだろう。
そっちの方がずっと、気が楽だった。
太陽くんは、来週もお弁当を作ってきてくれるつもりらしい。
正直、嬉しいと思ってしまった。
それがたとえ家畜の健康を気遣うような感情であっても、誰かに気にかけてもらうことなんて、なかったのだ。
今夜食べにいくなんて言われて、少しだけ心が弾んだ。
「はぁ。馬鹿じゃないの。向こうは私をエサとしか考えてないのに」
そもそも、太陽くんは人間じゃあない。私とは違う世界を生きている人だ。
それに、太陽くんを覆っているオーラはどす黒い。
どう考えても太陽くんは悪人だし……というか、悪魔だし、色々と底がしれない。
そんな相手、好意を持つだけ不毛である。
私がモヤモヤしていると、ふっと眠気がやってきた。
どうやっても抗えない急速な睡魔は、太陽くんの仕業だ。
エサの時間が始まる。
理性とは裏腹に心臓がドキドキと弾んだ。