悪魔な太陽くんと餌の私
私は顔を顰めた。
もし、私の印が太陽くんに繋がっていたとしても、電話越しならそれをきっかけに太陽くんの位置がバレることはないだろうと判断している。
だけど、直接会えば、そこからライアンさんに太陽くんの情報が伝わるかもしれない。
「すみません。ライアンさんは夢魔の命を狙っているんですよね? 彼の情報を教えるわけにはいかないんです」
「確かに僕は悪魔を滅するために動いている。だけど、それとは別に君に興味がある」
「どういうことですか?」
「悪魔を払うには、霊力が必要なんだ。君、退魔師に興味はない?」
まさか、そんな勧誘をされるとは思っていなくて、目を丸くした。
「退魔師って、悪魔を退治する人ですよね? 私、彼の敵になるつもりはありません」
「退魔師になるならないは別にしても、力の使い方を覚えておくだけでも良いと思うよ。霊力のある人間は、悪いモノに狙われやすいんだ。だけど、うまく力を使えれば撃退することもできる」
言われて、私は紫苑さんに拘束されたときのことを思い出した。
もし、霊力とやらを上手く使えていたら、あの時、太陽くんを引き留めることが出来たんじゃないだろうか。
「そうやって私を誘い出して、夢魔の場所を探るつもりですか?」
「そうじゃないよ。君は信じないかもしれないけど、つけられた印から夢魔の居場所を探るなんて真似、僕にはできない」
それをライアンさんから言われても、信じられるはずが無い。
「信じられない?」
「安易に信じて、彼を危険にさらしたくありません」
「本当にその夢魔のことが好きなんだね。だけど、もし僕が嘘をついていて、印から夢魔を探せるんだったら、君にとってもチャンスなんじゃない? 彼を探したいんでしょう?」
ライアンさんの言葉に息を飲む。
確かに、もしライアンさんが太陽くんの場所を探せるなら、もう一度彼に会えるチャンスでもあるのだ。
だけど、それには太陽くんの身が危険にさらされる可能性もあるわけで。
「だったら、ライアンさんを見張ってもいいですか? 私の知らないうちに、彼を殺しにいかないように」
「僕は構わないけど。君は大丈夫なの? 見張るとなると、1日や2日のことじゃあないでしょう?」
「大丈夫です。なにも、問題ありません」
学校なんて、どうでもいい。
バイト先には申し訳ないが、新しい人を探してもらおう。
どうせ、太陽くんについていくって決めたときに、全部捨てると決意したのだ。
もういちど太陽くんに会えるなら、何もいらない。
私が言うと、電話の向こうでライアンさんがくつくつと笑う気配がした。
「ずいぶんと思い切りがいいね。君、退魔師に向いているよ」