堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

15.おかしいです

 結局、陛下からの通訳の誘いも身体が丈夫では無いから、という理由でジルベルトが断ってくれた。それに対してはエレオノーラの口を挟む余裕さえなかった。とにかく、ジルベルトがお怒りだったからだ。本当にこんな姿のジルベルトを目にしたことがなかったエレオノーラ。驚きつつも少し嬉しくなりつつも。
 そして、それでも食い下がらなかった国王陛下が「だったら通訳じゃなくて書類の翻訳でも」と妥協案を出してきた。国王にとっては妥協案だが、エレオノーラにとっては妥協されていないようにも思える。だけど残念なことに、それについての断る理由が思い浮かばず、なんとなく曖昧なまま引き受けてしまう形になった。
 本業の騎士団の仕事もあるにも関わらず。だが、国王はエレオノーラが第零騎士団に所属していることを知らない。それだけ彼女という存在は、いやレオンという騎士は秘密の存在。

 帰りの馬車で向かい側に座るジルベルトがとても大きくて深いため息をついた。目の前に書類があったのであれば、そのため息で一枚残らず吹っ飛んでいったに違いない、と思えるほど。

「どうかされましたか、リガウン団長」
 エレオノーラは斜め前にあるジルベルトの顔を見つめた。

「いや。あなたを巻き込んでしまって申し訳ない」

「いえ。お気になさらないでください」
 笑顔で答える。それはエレオノーラ自身は大して気にしていませんよ、というアピール。

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