堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

17.会いにきちゃいました

 エレオノーラには本当に翻訳の仕事がやってきた。あれは社交辞令ではなかったのか、と彼女は思っていたのだが、どうやら社交辞令手は無かったらしい。それでも通訳をやらされるよりは何倍もマシだ、と思うことにした。
 ただ、騎士団としての潜入捜査の一つとして、通訳として潜入するのも悪くはないかもしれない、とか思い始めてきた。そう、国王の通訳をしながらいろいろ探りを入れる、という捜査。もちろん捜査の相手は国王ではない。国王に会いに来る人達。だが、残念ながら今のところそのような仕事の依頼はない。
 それはそのタイミングがきたときに、ジルベルトを通して国王に打診すればいいだろう。

 エレオノーラは両手を重ね、頭の上でそれを伸ばした。そのタイミングで部屋をノックされる。

「あら、ダン兄さま。どうかされましたか?」

 姿を現したダニエルは、仕事から帰ってきてそのままここに向かってきたのだろう。騎士団の騎士服のままだ。それだけでも珍しいのに。

「いや、その」
 と珍しく歯切れが悪い。あの兄が、歯切れが悪いのだ。らしくもない。何か起こったのか。

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