堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

18.大人の時間です(2)

「やあ、マリー」

「あら、アンディ。元気だった?」

 今日もカウンターで一人グラスを傾けていた彼女に言い寄る男が一人。金色の髪を撫でつけている男。そう、いつものあの男。

「相変わらず、君はステキだね」
 口から出る言葉はいつもの言葉。

「褒めても何も出ないわよ」
 マリーと呼ばれた女性がグラスを口元にまで運ぶと、カランと氷が鳴った。首を傾ける仕草も、そのグラスを口元につける仕草も、男にとっては誘っているようにしか見えない。

「そうそう、アンディ。例の件、わかったわよ」
 グラスから口を離しながら、マリーは言った。
「少し、場所を変えましょう」

「上か?」
 アンディは右手の人差し指を立てた。上の部屋。つまり、誰にも聞かれたくない話をする部屋。もしくは、誰にも見られたくないような行為をする部屋。期待が無いと言ったら嘘になる。もう、期待しかない。期待するしかない。

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