堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

26.誘拐されました

 あの遠乗り以降、急激にジルベルトとの仲が近くなっているような気がする。と言っても婚約者同士でありながら、簡単に会えるような関係でも無い。本来であれば簡単に会える関係になっていてもおかしくはないのだが、ジルベルトも団長という立場があり、彼女が第零という特殊な任務についているから、というのもある。
 さらにエレオノーラは、最近では騎士団の建物へ通うことは減り、屋敷での仕事が多くなった。つまり、あれだ。前世かそのまた前世かで一時期流行った在宅勤務という奴だ。
 だからか、なおさらジルベルトと会う機会が減ってしまった。あのデート以降会えていない、というのが現実。それでいいのか、と思っているのも事実。
 だが、自分は彼の婚約者を演じているだけなのに、会いたいと思う気持ちはいかがなものなのか、とエレオノーラ自身悩んでいるところもある。だから、素直に会いたいということもできない葛藤。

「妹よ、元気にしていたか」
 と、変な言葉遣いでエレオノーラの部屋に入ってきたのはダニエル。

「ダンお兄さま、どうかされましたか?」

 エレオノーラは今日も翻訳の仕事に励んでいた。騎士団の方の仕事と程遠くなってきているようにも感じるのだが。あの陛下直々の依頼となれば仕方ない。あきらめるしかない、とも思っている。
< 197 / 528 >

この作品をシェア

pagetop