堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

14.捕らわれました

 エレオノーラが目的の行為を終え、会場へと戻ろうとしたときに「お嬢さん」と一人の男性から声をかけられた。まさか、この魅惑の美女でお嬢さんと声をかけられるとは思っていなかったため、無視していたら、「お嬢さん、お待ちください」と追いかけられてきた。
 これは、遥かなる昔の記憶にある歌を思い起こさせるような成り行きであるが、別にネックレスを落としたわけではない。だからといって、これ以上無視するのも気が引ける。エレオノーラは立ち止まり、はい、と振り返った。もちろん妖艶な笑み付きで。そこには男が一人いた、と思う。

 一人いたと思う、というのは振り返った瞬間に、見事みぞおちに一発いれられてしまったから。

 マジか。レディになんてことするんだよ、という彼女の心の中の声は、また遥かなる記憶によるものだ。

 エレオノーラは意識を失った。ふりをした。

 というのも、リガウン侯爵の元で修行に励んでいたエレオノーラは、前回のグリフィン公爵の潜入調査時よりも、腹筋が鍛えられている。ダニエルが「腹筋が割れている」と言ったのも頷ける鍛えられ具合だし、ジルベルトも知っていると公言するだけある鍛えられ具合。
 みぞおちに一発いれられたくらいでは、びくともしない彼女の腹筋。一瞬、腹筋の硬さがばれたかな、と思ったエレオノーラではあるが、気を失ってくれたことに相手は満足したらしい。
 うん、気を失ったふりだから、と心の中で呟いているエレオノーラ。

< 351 / 528 >

この作品をシェア

pagetop