堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「女!」
 二人の男がエレオノーラめがけてやってくる。

「今のうち、逃げて」
 エレオノーラがマリアに視線を送り、彼女に向かって言葉を放つ。
 マリアはすっと立ち上がると、出入り口目掛けて走り出した。
 男のうちの一人がそれに気付き、目標をエレオノーラからマリアへと変えるのだが。

「あなたの相手は私ですよ」

 楽しそうにエレオノーラは笑い、それの背中に蹴りを入れた。スカートの裾に隠れて、足の軌道が見えないからか、相手からは突然足が出てきたように見える。背中を蹴られた男は、前のめりになって倒れ込む。それは見事に、彼の背中にくっきりと足の裏の後が付くような蹴りだった。

 残りは一人。
 最後の悪あがきか、エレオノーラに向かって拳を振り上げてきた。それが、思っていたよりも速く感じるのは、彼は経験者なのか。
 エレオノーラは身体を低くしてそれを避け、相手の懐に入り込む。あまりパンチは得意ではないので、そのまま頭突きで相手の顎を狙った。男は顔を押さえてよろけたため、そのみぞおち向かって蹴りを繰り出す。
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