堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

12.呼び出されました

 それから十日が過ぎた今、あれ以降ジルベルトはエレオノーラに会っていない。会えていない、と表現した方が正しい。まあ、特段と会う理由も無いのだが、それでもなんとなく気になっていた。むしろ婚約者なのだから、会う理由を作るべきではないのか、とも思っていた。
 そうやって彼女が気になっているにも関わらず、国王から呼び出し状が届いた。リガウン侯爵家に届いたのではなく、この第一騎士団団長宛てに届けてきたあたりが、裏を感じる。

「団長、陛下からの呼び出し状です」
 今日も眼鏡をキラリと光らせながら、サニエラが手渡したのは一通の書簡。つまり、呼び出し状。ジルベルトがそれを乱暴に受け取り確認すると、国王陛下の名前があった。わかっていたことではあるが、案の定、としか言いようがない。しかもご丁寧に婚約者も一緒にと。いつかは起こることだろうとは思っていた。だから、それがとうとうやって来たと思えば気は楽になるのだが、やはり気が重い。
 ものすごく深いため息をつきたくなった。
 本音を言えば、行きたくない。どうにかして断る方法は無いものか。行きたくない。

「行きたくないとか、そういう駄々はこねないでくださいね。早速ですが、スケジュールの調整をいたします」
 心を読んだかのように、サニエラは事務的に答える。なぜ彼はジルベルトの心の内がわかるのか。どうせならば断わる方法を考えて欲しかった。スケジュール調整までされたら、断れない。だからといって、けして駄々をこねているわけでもない。

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