花笑ふ、消え惑ふ

月夜とおおかみ






「私情で動くなんて、本当にあなたらしくないですね」


部屋を出ると、廊下の突き当たりから総司が顔をのぞかせた。


顔は笑ってこそいるが、なにか思うところがありそうだ。


血の色をした瞳は、静かな紅だった。




「……お前、部屋に戻ったんじゃなかったのか」

「いったんは戻りましたよ。でもやっぱり気になって」

「俺は好みでもねえ女にゃ手出さねーぞ」

「そっちじゃないです。そこはどうでもいいんです」



じゃあなにを。


俺が渋々訊くよりも、総司が核心を突くほうが早かった。





「“あの子、ちょっとおかしいですよ”」




「……」

「つい先日、何十人もの人を殺している者の精神じゃありません」


あまりにも落ち着きすぎています、と。


総司は自分と照らし合わせているのか、一瞬だけ暗い目になった。


この男──沖田総司は隊士の中でもずば抜けて剣の筋がいい。

そして誰よりも多く人を斬ってきた。


だからこそあの女の異様さを敏感に感じ取ったのだろう。


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