花笑ふ、消え惑ふ


流の新たな処遇も決まったとき、近くにいた平助が一向にお膳に手をつけようとしない流に首をかしげる。


もうみんな食べ始めているのに、流の手は膝の上に縫い付けられるように置いてあった。




「流、食べないの?もしかして嫌いなもの入ってる?」

「いえ!そんなことは……皆さんが食べ終わったあとに、わたしもいただきます」

「えっなんで!?いいんだよいま食べても!ほら、冷めちゃうよ~?」

「でも、」


流はちらりと近藤と、その近くにいる土方を見やった。



────わたしが一緒に食べることを、快く思わない人もいるかもしれない。


実際、吉原ではそうだった。女が一緒に食事を摂ることなどもってのほか、酒の酌をしないで座っているだけで無能扱いされる世界だった。




「お酒は飲まないんですか?」

「朝っぱらから飲まないよ。ここは遊郭じゃないんだから」

「そう、ですよね」



────どうしよう。


お腹の虫がきゅるる、と控えめに鳴いた。



物心ついたときから、流は人より食べなくても生きていけた。


それでも10日間近く、お腹に木の実と川の水以外溜めていないとなると、さすがにどうなるかわからなかった。


苦みしかなかった小さな赤い実を思い出す。


とてもじゃないけど、お腹の虫を抑えることはできなかった。


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