溺愛結婚は突然に〜ホテル王から注がれる、溢れるほどの愛〜
甘い誘い



しっかりと朝日が昇った頃。


私は一睡もしないまま、ホテル内のレストランで両親と向かい合って朝食を摂っていた。


黙々とカトラリーを動かしながらちらりと両親を見ると、二人ともじっと私の方を見つめていた。


食べ終わった頃にナプキンで口元を拭き、両親に改めて向き直る。



「昨日は、心配かけてごめんなさい。ずっと探してくれてたのに」


「……いや、私もすまない。紅葉はただ反抗心からそう言ってるだけかと思っていたんだ。しっかり紅葉の気持ちを受け止めてやれなかったこと、反省している」


「紅葉、お母さんもごめんなさい。紅葉がそこまで思い詰めていたこと、私たち何も知らなかった」



食後のコーヒーを飲みながら、三人でゆっくりとお互いの気持ちを話す。


私も今まではただ自分の気持ちを押し付けるように"親が決めた相手との結婚は嫌だ"としか言っていなかったのではないかと気が付く。


理解してくれない、と嘆いていたけれど、それは私がしっかりと向き合おうとしなかったことが問題だったのではないか。


そう思うほどに、しっかりと話せば両親は私の気持ちを聞いてくれたし、わかってくれた。



「……紅葉の気持ちはよくわかった。しかし今の時点でその相手がいるならまだしも、いないとなるとお祖父様の説得は難しいと思う」


「……うん。わかってる」



"その相手"と言われて、一瞬頭の中に小田切 優吾の顔が過った。


鞄の中にはまだあの連絡先を書いた紙は入っているものの、あれから登録だけはしたものの何も連絡はしていなかった。


やっぱり、あれが現実に起こったことだとは信じられなかったのだ。


酔ってたから夢を見た?幻覚?


そんなわけないと頭ではわかっているのに、自分の身に起きたことに思考が追いつかない。


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