オトメは温和に愛されたい
「で、でもね……手を繋ぐのは……なしねっ」

 照れ隠しで、温和(はるまさ)からほんの少し離れて矢継ぎ早にそう告げたら、背後からギュッと腰を抱かれた。

「じゃあこれは?」

「ひゃ!」

 そのまま耳元で低くささやかれて、思わずゾクリと肌が粟立って、変な声まで出てしまう。

「……ひゃっ、ヒャメに決まってるっ」

 真っ赤になりながら変な声を誤魔化すようにダメだと吐き捨てたら、ろれつが回らなくてクスクス笑われた。

温和(はるまさ)の意地悪っ」

 言って、彼の腕を振り解いて早足で歩き始めてみたものの、すぐに余裕で追いつかれて横へ並ばれてしまった。

 脚の長さ(コンパス)の差が本気で悔しいっ。

音芽(おとめ)、機嫌直せよ」

 むぅーっと口をへの字にしたまま歩いていたら、温和(はるまさ)に謝られる。
 別に怒ってないんだけどね、たまにはこういうのもいいかも知んないって思った。

 いつも私、温和(はるまさ)を追いかける方だったから。

 温和(はるまさ)が私のことを好きでいてくれると実感できるこういう些細な瞬間が堪らなく愛しい。

 ちょっと前までは考えられなかった。
 温和(はるまさ)が私を好きだと言ってくれる日がくるなんて。

 温和(はるまさ)はいつだって高嶺の花で、彼の横には常に綺麗な女性が陣取っている。
 そういうイメージしかなかったんだもの。

 綺麗かどうかは別として……私が今、あのポジションにいるんだと思っても……いいんだよね?

 誰かに奪われたり……しないよね?
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