オトメは温和に愛されたい
 よく分からないけれど、朝から喧嘩はしたくないので、温和(はるまさ)に言われた通りに扉に鍵をかけてから、一応ちゃんと施錠されたかどうか確認する。

 その後で、すでに数歩前を歩いていた温和(はるまさ)を急いで追いかけようとしたら、

「俺は先に荷物積んでくるから、お前はゆっくり降りてこい。……――急がなくて、いい」

 こちらを振り返った温和(はるまさ)が、そう言った。

 気のせいかな、今朝はほんのちょっぴり優しい気がする。いつもなら、この後に必ず「転ばれたら迷惑だからな」とか余計な一言がつくんだけど……それがないから何だかソワソワしてしまう。

 コクコクと温和(はるまさ)にうなずいてから、彼が二人分の荷物を手に、小走りに階段を降りていくのを見るとはなしに見送る。

 手すりに手をかけながらえっちらおっちら歩いていたら、手ぶらになった温和(はるまさ)が戻ってきた。
 と、いきなりなんの前触れもなくこちらに背中を向けて腰を落とすから、温和(はるまさ)、靴紐でも解けたのかな?と思ったよね。
 なのに、「何ボォーッと突っ立ってんだ、乗れよ」って……ま、本気(マジ)ですかっ!

「あ……いっ、いいよ。週明け早々温和(はるまさ)のスーツ、汚しちゃいけないし……」

 しどろもどろにお断り申し上げたら、チッと舌打ちされた。

「仕事用のスーツだ。どうせチビどもに汚されるんだし、お前が汚すのも大差ねぇだろ。――しのごの言わずに早く負ぶされって。時間が惜しい」

 俺はお前と違って職場で処理しなきゃいけないことが山積みなんだよ、とか……。

 どうやら、私に拒否権はないみたいです。
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