私を変えたのは、契約の婚約者。〜社長令嬢は甘く淫らに翻弄される〜

アシスタント

「今日から水鳥川(みとりかわ)さんは真宮部長のアシスタントをしてください」
「は……い?」
「席も移ってね」
「……はい」

 出社するといきなり宇部部長に言われて、私は戸惑った。 
 女子を中心に周りがざわめく。

「いいなー。なんで水鳥川さんなの? 私もサポートしたい」
「水鳥川さんが一番暇だからじゃない?」
「確かに! あ〜あ、私の方が仕事できると思うんだけどな」
「こら、失礼なことを言わない。真宮部長のご指名だ」

 やっかむ声に宇部部長の咎める声を聞き流して、ノートパソコンと書類入れを持って移動する。
 うちはフリーアドレスになっているから、この二つを移動させるだけで、引っ越し完了だ。

(真宮部長のご指名……。どうして?)

 疑問に思いながらも、真宮部長の席と直角になっている席についた。この一角は真宮部長のために設置されていたので、三席しかなく、私の向かいは空席だった。

「それじゃあ、よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 パソコンを繋ぐと真宮部長に声をかけられる。
 早速だが、と紙を渡されて、「そこにリストアップしてある会社の信用情報を集めてくれ。午前中にできるか?」と聞かれた。
 うちは専門のデータバンクと契約しているから、照会するだけで簡単に済む。

「できます」

 私がうなずくと、続けて違う紙を渡された。

「次に、そこに書いてある会社の情報を集めて、今から渡すフォーマットデータに入力していってくれ。これは今日中だ」
「承知しました」

 毎日時間を持ち余していた私は、仕事ができて張り切った。しかも、やればやるほど仕事は降ってきた。
 十二時になり、昼休憩の時間だったけど、あと少しで切りのいいところまでできると思い、続けていたら、ぽんと頭を叩かれた。

「その仕事は今日中って言っただろ? 休憩はしっかり取って、メリハリつけてやれ」
「はい。申し訳ありません」
「お嬢様はもうちょっと肩の力を抜けよ」

 真宮部長はふっと笑うと、ランチに出かけていった。
 どうやら彼の中で、私のあだ名は『お嬢様』に決まってしまったみたいだ。
 他の人から言われると、疎外感を覚えるその言葉も、真宮部長の口から出ると、なぜか親しげに感じるから不思議だ。
 からかい半分に言われているからかもしれない。

 今までに周りにいなかったタイプに、私は困惑したけれど、こんなふうに会社で充実感を持ったのも初めてで、有り難くも感じた。



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