逆プロポーズした恋の顛末

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義父と尽抜きで対面することになるかも、という気がかりはあったものの、マンションへ戻り、座り心地のよいソファーに身を落ち着けると、ホッとした。

入院中は、尽をはじめ、所長や吉川さん、イシダさんらに至れり尽くせりで世話をやかれていたので、不便や不満はなかったが、やっぱり「家」が一番落ち着く。

それは、幸生も同じだった。
玄関を開け、「ただいま!」と言った表情が、目に見えてちがう。

住み慣れたアパートではないけれど、この部屋は幸生にとって「安心できる場所」なのだ。
しかも、「おじいちゃん先生」と「吉川さん」という心強い味方がいる。

わたしも、幸生をひとりぼっちにせずに済むことに、心の底から安堵していた。

これまで、所長や山岡さんをはじめ、いろんなひとに助けてもらって幸生を育ててきた。
幸いなことに、怪我をしたり病気をしたりして、まったく幸生の世話ができなくなったことは一度もなかったから、今回のような事態は初めてだった。

頼りにできる人がいるのはどんなにありがたいことか、つくづく身に染みた。

所長、吉川さん、午来さん、病院のスタッフ――彼らがいてくれなかったら、二進も三進もいかなかっただろう。

そして、尽も。

わたしがこうして落ち着いていられるのは、根底に「尽がいる」という安心感があるからだ。

万が一、わたしに何かあっても、幸生には尽がいる。
そう思えば、焦りや不安が再現なく大きくなることはない。

ただ、頼れる手は多いに越したことはないので、できれば、尽の両親には幸生を孫として受け入れてほしいと思う。
立見家の一員として迎え入れ、幸生の力になってやってほしいと思う。


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