逆プロポーズした恋の顛末

義父が、ふわりと柔らかい笑みを浮かべて向かい合うソファーに座るなり、幸生はさっそく何て呼んだらいいのかと訊ねる。


「おじいちゃんと呼ばれるのが普通なんだけど、そうするとおじいちゃんが二人になっちゃうか。困ったなぁ」


しばらく首を傾げて考え込んでいたが、妥協案として「恵おじいちゃん」でどうだろうと言う。
幸生が、すんなりそれでいいと同意すれば、「よかった」と胸を撫で下ろしてみせた。


「それで……いったい、何がどうなっているんだ? アレが、りっちゃんたちを呼びつけて謝罪したと聞いたが、もう会えないだの遠くへ行くだの、さっぱりわからん。説明してくれ」


吉川さんがコーヒーを持って来てくれたタイミングで、所長が我慢しきれないと言うように早口に訊ねた。

対する義父の答えは、実にあっさりとしていて、冷たいものだった。


「あくまでも家族の問題ですので。あなたに説明する義務はありません」

「…………」

「息子であるわたし自身のことなら、実の父親であるあなたに話す義務はある。ですが、別れた妻はあなたにとって他人。あなたには何かをする権利も義務もない。この先の人生にはかかわりのない存在として、切り捨てた相手のことをいまさら聞いて、どうするんです?」

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