逆プロポーズした恋の顛末
(……う、そ。なんで……なんで、ここにいるの!?)
わたしが憶えている姿よりも少し痩せ、大人の男性らしい落ち着いた雰囲気を漂わせているのは、この週末ずっと脳裏を離れなかった存在。
幸生の父親――四年ぶりに会う、「立見 尽」だった。
「おはよう! おじいちゃん先生」
「おはよう、幸生くん、りっちゃん。コレは、今日から診療所でしばらく働くお医者さんで、わたしの孫だ」
(ま、孫!?)
初耳の情報に、さらに驚かされる。
(言われてみれば……似てる。けど、でも、どうして……)
所長は、わたしと尽、そして幸生の関係を知っていて、彼に代理を頼んだのか。
それとも本当に偶然で、何も知らないのか。
いつもと変わらない笑顔で挨拶してくる様子からは、何の手がかりも得られない。
「ふうん? じゃあ、おにいちゃん先生?」
にっこり笑ってそうネーミングした幸生に、所長は「うまいこと言うなぁ」と笑う。
おにいちゃん先生という肩書きを与えられた本人は、所長ほどポーカーフェイスを保てずに驚きの表情をしている。
しかし、幸生が「いぬい こうきですっ」と元気いっぱい名乗ると、ハッとしたように名乗り返した。
「立見 尽だ。よろしく」
「おじいちゃん先生とおにいちゃん先生は、どこへ行くの?」
「散歩中だ。幸生くんは、保育園へ行くんだろう?」
「そうだよ!」
「あの、所長、もう遅刻しそうなので……」
とりあえずこの場から立ち去ろうとしたが、所長は一緒に保育園まで行くと言い出す。
「ついでに、園長先生たちに尽を紹介しておこう。連携することもあるかもしれないし」
(ちょ、ちょっと待って、所長! 幸生と尽が並んだら……)
たくさんの子どもを見てきた保母さんや園長なら、尽と幸生の血の繋がりを見破ってしまいそうだ。
(できるだけ幸生と尽が一緒にいるところを見せなければ、シラを切り通せるかもしれないのに!)
いつかは、幸生に、尽に、本当のことを話さなくてはいけないとしても、それは「いま」じゃない。
「ママぁ、おなか出てるよー」
「え! ああ、ごめん!」
中途半端に抱き上げていたせいで、幸生のシャツがズボンから抜け、朝食の名残でまだぷっくり膨らんでいるお腹が丸見えだ。