逆プロポーズした恋の顛末
店内にいるのは、わたしとマスター、そして大柄な男性客の三人だけ。
マスターがそんなことを言うはずがないので、声の主はその男性ということになる。
「ジンくん」
マスターの咎めるような声に、手にしたブランデーグラスを見つめていた彼が顔を上げた。
ぐいっとグラスに注がれた琥珀の液体を呷り、再びぼそっと呟く。
「独り言だ」
薄暗い店内、しかも間に二つ席を挟んだ距離では、表情を正確に読み取るのは難しい。
が、失礼で傲慢な人物だと知るには、たったふた言でも十分だ。
「たしなみ方も知らないお子様に飲まれるんじゃあ、お酒がもったいないわ」
こちらを見ている気配を感じながら、前を見たまま「独り言よ」と言ってやる。
相手が客ならニコニコ笑って聞き流すが、そうではないのだから愛想よくする必要はない。
他の客に絡むなんて、マナー違反をする相手に払う礼儀は持ち合わせていないのだ。
「言ってくれるじゃねぇか」
唸るような声に続き、ドカッという音と共に身体の左半分に圧を感じる。
(何よ。先に絡んできたのは……)
そっちが始めたのだと言ってやろうと思ったが、横にいるものをひと目見るなり、声を失った。
(これ、生身の人間? ヨーロッパとかから運んできた彫像じゃないの!?)
だらしなくカウンターに肘をつき、こちらを見上げていたのは、世界遺産に認定してもよさそうな「創造物」だった。
ジーンズに包まれた足は、高さのあるスツールに座っていても床に届くほど長い。
広い肩。厚い胸板、Tシャツの袖口から伸びる腕には、しなやかな筋肉がある。
もちろん、お腹周りに余計なぜい肉などひと欠片もついていない。
そんな完璧な身体と同じく、顔も完璧に整っていた。
日本人離れした彫りの深さで、凛々しい眉の下には二重の大きな目。すっと通った鼻筋は細すぎず、太すぎず。
しっかりとした顎は男らしさを醸し出し、大きめの口、柔らかそうな唇はキスをしたら気持ちよさそうだ。
その上、無精髭まであるとくれば……。