そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
『何、お前の意思じゃねぇの? じゃあ夜逃げってわけじゃねぇのな? なぁ。どういうことだよ? 分かるように話せよ。あ。もしかして――無理矢理立ち退きさせられたとかっ!?』

 立ち退きは迫られていたけどさすがにそんな、急に、になる予定じゃなかったよ。

 もちろん、夜逃げなんてしてないしっ。

 昨夕のプロによる荷物の持ち出しがそう見えていないなら……、多分。


 ややこしくなりそうなので、声には出さずに心の中でアレコレ答える。


 でも、沈黙を肯定――立ち退きになった――と受け取ったらしい寛道(ひろみち)が、勝手にプンスカし始めて――。


『何だよそれ! 女ばっかだったし、お袋さん入院してお前だけになったからって舐められたんじゃねぇの?」

 そこまで言って、少し考えるみたいな間があいた後、
『なぁ、俺が大家に文句言ってやろうか?』
 そう聞かれて私は慌ててしまった。


 い、いや、大家さん悪くないし! ちょっと待って?


「ち、違うのっ」


 でも現状を何と言ったらいいのかよく分からなくて、私は口ごもってしまう。


『……花々里(かがり)。お前、ホント、大丈夫なのか? ――なぁ、もう一回(もっかい)聞くけどさ、お前、今どこにいるんだよ?』


 再度問いかけられて、私、ハッと気が付いた。


 そういえば、屋敷(ここ)はどこ?って考えてる最中だったよ!?



「ね、寛道(ひろみち)。私、今どこにいるんだろう?」


 聞いた途端、電話口から『知るか! むしろ俺が知りてぇわ!』って叫び声が聞こえてきた。


 そりゃそうか……。
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