そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
 言われて、否応なしにぐいぐい手を引っ張られる。
 私、子犬なんて可愛いものじゃありません。
 強いて言うなら「はらぺこヨダレむし」ですっ。


***


「――ときに、コンビニのはよく分からないから俺の馴染みの店ので構わないか?」

 半ば無理矢理高級車――黒のレクサス!――の助手席に押し込まれてガチャリと拘束――ではなくシートベルトをされて。

 じょ、助手席とか……彼女でもないのにいいのっ?

 とか戸惑っているうちに身体の上に覆い被さるようにされたまま、超絶美形に目の前で問いかけられたら言葉の内容なんて吟味できずにうなずいちゃうよね?

 私も御多分に洩れず、半ば夢現(ゆめうつつ)で「はいっ!」って答えて、背筋をぴーんと伸ばしてから、御神本(みきもと)さんの顔の近さに慌ててそっぽを向いた。

「素直で宜しい」

 途端、再度頭を優しく撫でられて、私の意識はトロリと(とろ)けてしまう。
 男のくせになんだかいい匂いもするし!
 香水とか疎くてなんの、とかは分かんないけど、とにかく爽やかな香り。

 御神本(みきもと)頼綱(よりつな)、恐るべし!

 出会ってたかだか数分。

 私、気がついたら「名前」と「母の知り合い」だと言うことくらいしかよく分からない「産婦人科の跡取り息子」に飼い慣らされかけてます。
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