そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
「あ、あのっ、どうすれば……許して……もらえます、か?」

 とうとうその空気感に耐えきれなくなって眉根を寄せたら、

「例えば……だけど。さっきのロビーでの()()は結構グッときたね」

 と吐息まじりに切なげな視線を流された。


 私は頼綱(よりつな)が何のことを言っているのかしばし模索して……。

 そうしてハッとする。


 恐る恐るすぐそばの頼綱に手を伸ばすと、その腰にそっと腕を回して彼の胸元に頬を擦り寄せた。

 途端頼綱の身に(まと)う香水の香りが鼻腔一杯に広がって、私は今、とても大胆なことをしているのだと自覚させられる。


 そのまましばらく頼綱にくっ付いていたら、

花々里(かがり)、こっち向いて?」

 頼綱から強請(ねだ)るようにそう言われて。

「目、閉じてくれるかな?」

 聞いたことのないような、甘えるような頼綱の声が胸をぎゅっと締め付ける。

 私は頼綱にしがみ付く腕を緩めて彼を振り仰ぐと、今から何をされるのか()()()()()()、言われた通りギュッと目を閉じた。


 と、優しくあごに手を添えられて、顔をさらに上向かされる。

「――んっ、……」

 頼綱が、私の反応を探るみたいに優しく何度か唇を()むようについばんできて。

 私はそれに応えるように薄く唇を開いた。

 頼綱が、その隙間を縫うように、ゆっくりと私の口中に舌を差し入れてくる。

「ふ、ぁっ」

 鼻から抜けるような甘い吐息を漏らして、私は()()()()()()()()()頼綱からの口付けを享受した。
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