そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
「俺もキミもキャリアは一緒だから、契約者名の変更と機種変だけで(おおむ)ねいけそうだね」

 壊れた携帯を前にそう言われた私は、docono(ドコノ)ショップのカウンターで、ショップ店員のお姉さんと頼綱(よりつな)に挟まれてキョトンとする。

「どういう……意味?」

 恐る恐る聞いたら、「Mobile() Number(N) Portability()転出の手続きが不要と言うことだよ」と言われて、「MNP?」とますます目が点になる。

 私、ホントこういうのに興味なし子でサッパリ分からないの。

 頼綱の説明によると、キャリアをまたいで現行の番号のまま他所(よそ)に行く場合は、事前に元々のキャリアに転出の手続きが要るんだとか。
 でも同一キャリアならそういうのを省けるらしい。

 今回は電話番号はそのままに、契約者名を頼綱に変えて、引き落とし先も頼綱の口座に変更するとか何とか。

 機種もガラケーではなく、頼綱のと同じ食べかけリンゴマークのスマートフォンになるみたい。


「本当に……いいの?」

 スマートフォンの機種代はおろか、私の携帯料金までも頼綱に被ってもらってもいいのかな。

 ソワソワとすぐ横の頼綱を見つめたら、

「その話はもうついたはずだよね?」

 テーブルに乗せた手にそっと触れられて、頼綱の方を見たら思いのほか至近距離で。私は人前なことも忘れてドキドキしてしまう。

 私、さっき頼綱(このひと)と。

 思い出さなくてもいいことまで思い出しそうになって慌ててうつむいたら、

花々里(かがり)の面倒を見るのは俺の趣味だから。――ね?」

 そう、優しく告げられて、ただただコクコクとうなずいた。
 実際は現状が居た堪れなくて、一切合切(いっさいがっさい)どうでも良くなってしまっただけなんだけど。
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