そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
 それにああ見えてあの男、かなり整った顔をした肉食系だし、割とくる者拒まずなところがある。

 前に「好みとか好みじゃないとかないのかね?」と聞いたら、「特定の相手がいるわけでなし、勇気出して告白してくれたのを断るのもな、と思ったらつい……」とか返された。

 とはいえ、俺は知っている。
 あの男に好きだと言えるような女性はみんな、ある程度自分にも自信があるタイプだってこと。
 選んでないと言う割に連れている女性は皆一様に美人だったし、何なら気が強くて押しの強いタイプが殆どだった。

 俺の花々里(かがり)は勿論、イケイケな感じではない。けれど、あの子は人を好きになる基準が世間一般とはズレているからね。
 いつ鳥飼(とりかい)の餌やりにほだされて、尻尾を振り始めないとは言い切れないじゃないか。

 いや、実際シュークリームを食べさせてもらった時なんか、絶対あの子は鳥飼(とりかい)への警戒心を解いていたはずなんだ。

 花々里の、食べ物を頬張っている時の表情の可愛さは異常だ。
 俺のものだと散々牽制(けんせい)はしてあっても、鳥飼だって男。しかも今はフリーときてる。

 花々里の方から寄って行ったら、何か間違いが起こらないとは言い切れないじゃないか。

 だから「あの男には近付くな」とあれほど言い聞かせておいたのに。

 うちの〝忠犬〟は食べ物を前にすると途端〝駄犬〟に成り下がる。

 そこが手懐けやすくて気に入っているんだが、危険なところでもあって、油断出来ない。
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